2019/07/06

「鷲(わし)」の作者判明!

なんたる迂闊!

 家の中の整理を思い立った当初、まあ1ヶ月くらいでなんとか、と思っていたものが、1年経っても終わらない! なに?そんなに広い家!…なんて思われたら、そりゃ嬉しい誤解ですが、…ともかく箱と本と紙が…うず高く積み上がっているのです!

 まあほんとうによく(なにやら、かやら)を集めたり、作ったりしたものだとあきれます。しかし闇雲に手当たり次第集めたわけでもないので、それぞれの品には単なる思い出だけではなく、それなりの存在の理由もあるわけです。…でもまあ、わが棺が蓋われたときは、皆の目にはやっぱ(ごみの類)かなあ?!

 いや、これはそんな軽口をたたいてはいけない、大きな見落としをしていた資料(?)が出て来ました!

 昭和42年(1967)5月15日の日付にて、九州のおりがみ愛好家、児玉一夫さんからお送りいただいた「半巾形象圖解 鳥類之巻」なるものの(12枚のブルーコピー)です。
 お手紙には、『「光弘氏旧著、半巾形象図解」なる書を見る機会があり、複写しましたので送ります。…』 今から実に52年も前に、貴重なコピーをいただいておりながら、今初めてそれの価値に気付く! なんという迂闊さでしょう! 昔のブルーコピーとて、もう少々薄れ掛かって来ている始末!
 ただ、言い訳ではありませんが、この(12枚のブルーコピー)は、今改めて見ても儚げな姿です。一体この折り図、どなたが描いたのだろう?

 これをいただいた当初は、一瞥していた筈ですが、…当時の私には多分まったく魅力を感じなかったのだと思います。つまり、その後50年余のおりがみ遍歴があって、今初めて我が目の曇りが晴れたのだと思います。

 似た失敗は、(江戸の資料)「欄間図式(らんまずしき)」の“玉手箱”という、(ユニットおりがみの原点)たる作例を、本多功氏から戴いたご著書中で拝見していながら、当時の私の理念にて“切る”が用いられていたからでしょうか、興味が持てず、30年の余も忘れ果てていたことがありました。(現在では、この作例に完全に魅了されているのに!)

 まあ、言い訳ではありますが、私は新しい自身のものの探求が面白くて夢中で、過去を疎かにしていたのですね。ああ、なんたる目の濁り。でもまあ今、何とか間に合った!

 さて詳しく解説してみます。まず(半巾)とは(ハンカチーフ)のことです。(はんきん)と読むのだろうと思います。 そして児玉さんのお手紙にある(光弘氏)とは、我が師、内山興正(うちやま こうしょう)先生のご尊父、内山道郎(みちろう)氏(光弘←こうこうはペンネーム)。 折り紙史の中で、「花紋折り(かもんおり)」の創案者として高名な方です。(残念ながら私は、お会い出来る機会はありませんでした。)

 そして旧著とありますのは、昭和12年(1937)10月10日発行、著作者:内山道郎、とありました。わずかの紙数とて、本になっていたのかどうか分かりません。
 印刷所:内山(*)印刷所  発行者:中西儀兵衛  発行所:(株)中西儀兵衛商店

 はるか前に亡くなっておられる児玉一夫氏とて、詳細はまるで分かりません。そもそもそういうことを詳しく明かされない方でした。(* 内山道郎氏は、発明家でもあられたそうで、次項から解説しますが、著名なデザイナー柳宗理(やなぎ そうり)氏が書かれた文章の中には、『内山氏は“単式印刷法”なるものを発明されている』とのことですから、ひょっとすると、内山氏ご自身の印刷所かも知れません。)

 さて(ハンカチ折り)と現代訳すれば、ここに示された全10種の「とりの姿」の折り方は、『ハンカチに(やきごて)を当てて折りなさい。…すると、贈答品にもなる。』というものです。でもそんな面倒なことをしないでも、ふつうにおりがみで折れるものです。

 具体的にその鳥の名を挙げると、1「鳩(はと)」、2「鶴(つる)」、3「鴉(からす)」、4「鶏(にわとり)」、5「雀(すずめ)」、6「鴛鴦(おしどり)」、7「伽藍鳥(ペリカン)」、8「雉(きじ)」、9「白鳥(スワン)」、10「鷲(わし)」の10種です。

 そして最後の「鷲(あやめの基本形から“不切”で折ったもの)」を、私は伝承おりがみの「蟹(4ヶ所の切り有る用紙からのもの。)」に次ぐ(最難度の伝承作例)と言ってきたものでしたが、ああ、そのオリジナルは内山道郎さんだったんだ!と、真相が分かったのでした。 あれまあ、とにかくこの認識、あまりに遅い!

 ところで、この資料をそのまま紹介するわけにもまいりません。そこで、まずは10番目の「鷲」から始めて、順序を逆に辿って、全10種を折ったものの姿でご紹介してみようと思います。
 ともあれこのおりがみ造形を復元してみますなら、本多功さんや吉澤章さんなどに繋がる、現代的な革新の技法は、内山道郎氏から発していることがよく判ります。

 一方、同氏が創案された(光弘式重ね折り)と名付けられた、人物などの姿を紙を何枚も重ねて折るおりがみがあります。道郎氏自身のご主旨は、(“死蔵紙面”の活用)とのお考えにて、例えば(持ち物などを内部から切り出す)などの手法から、『切りまくりおりがみ』だとか『現代のおりがみ造形理念を破壊するもの』…などと酷評する方も居られ、…それで私の目も塞がれて来たのだと思います。 いや、人のせいにしてはいけません。今は自身の不明を解かなくてはなりません。

 なお、ここでしっかりと明記すべきは、これからご紹介するとりたちは、まったく切ってはいません。ご子息、興正師の理念(不切正方形1枚折り)のものなのです。(現在の私は、この師の理念には反論している者であることは、所々で言って来ましたね。)

 それにしても、こんな大事な資料にこれまでまったく気付かないで来たことを、大いに恥じ入っています。ともあれ、これから3回にわたってその作品をご紹介します。

1枚の正方形から、2枚の翼、2本の足、そして尾羽
までを(不切)で折り出すのは、かつては大いなるパ 
ズルでした。ケイタイやパソコンなど想像すら出来ず、
   前川淳さんという逸材も、かく言う笠原とて、影すらも   
ないときの話です。はっはっは。          
  さてこの「わし」、(あやめの基本形)から折ります。
道郎さんと同じものを、私はこんなスタイルの
伝承作品として覚えた。光弘式の、ちょっとユーモ
 ラスな造形感覚より、この方がシャープな印象だが、
まあ、今はオリジナルの形に惹かれます。    

9番目が「白鳥(スワン)」です。
これは(ざぶとん折り)してから、(魚
の基本形)を折った原型からのもの。 

8番目の「雉(きじ)」です。
頭部の折り方がユニークですね。
又これは(おりづるの基本形)
からです。          

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