2018/01/28

「玉手箱」諸形

今なお楽しい課題

 前に「サイコロ、すなわちキューブの魅力」の項で、最古級の資料「欄間図式(らんまずしき)享保19(1734)」を紹介しましたが、そこに「玉手箱」という作例の完成図が紹介されているのも紹介しました。

 ところでここに「欄間図式」から115年後に「絵本児雷也豪傑譚 嘉永2(1849)」という江戸の資料の(袋絵)に、(切り子型)の「玉手箱」が有ることが、岡村昌夫先生により発見されました。(東京文京区の礫川浮世絵美術館蔵 松井英男館長)

 なおつい先年、やはり岡村先生の手で、幕末期、山陽地方に居られた箏曲の教授、葛原勾当氏(この“勾当”というのは、盲目の箏曲指導者の階級名)という方が、おりがみ名人でもあられ、人形や動物などの作品の他に、(1:5の長方形6枚)からの「玉手箱」を(折り残して)おられたことを発見された。
(この方のことは、作家太宰治が、当人が書き残した「葛原勾当日記」を脚色して「盲人独笑」の題で作品発表している。その“はしがき”及び“あとがき”に、そのお人柄などが解説されていて興味深い。)

 さて嬉しいことに、おりがみの先達本多功氏の昭和の初期のご著書の中には、一般的に知られた(正方形6枚で、3等分折りのかざぐるまから作る玉手箱)と合わせ、上記の2種とで計3種の「玉手箱」を折り方紹介されておられるを知りました。
 こんなありがたい情報をご教示くださった、おりがみ歴史研究の第一人者のお一人であられた高木智氏は、また別に、これら3種とも異なる(4番目のもの)と私の目に映った絵の(浮世絵資料)を見せてくださいました。

 それは「女用教訓 絵本花の宴 宝暦2(1752)洛東遺宝館(京都)所蔵」の中に、(側面に❌印の無い)「玉手箱」の絵が有ることで、それの解明を試みたことから、さらに2種の折り方を思い付きましたので、計5種の作例となったのです。そしてそれはこれで止まらず、さらなるキューブ形へとライフワークの夢を広げてくれたのです。

 下の写真でそれらの現在までの諸形を見てください。

「玉手箱」として伝えられた三種の造形
側面に❌の無い1枚折りの「玉手箱」を
(5等分割折り)で解明しましたが、…こ
れは、(組みが弱い)ものでした。そこ
でこれの改良を試みると、そこには斜め
の折り目が現れてしまいます。    
      これはこれで(1枚折りのキューブ)と
 としてキューブ・コレクションとなりまし
    たが、さらに探求をしましたところ(2:
   1)の長方形(正方形の半分)の紙から希
望の造形の折りが見付かりました。  
    が、これは藤本修三先生が、(5:3の
用紙形)から折られたキューブと、原理
       的には 同じものでした。             

(組みの弱さ)の改良
藤本折りでの解法

藤本折りの造形を得る前に、
シルバー矩形から(飾り台)
の作例が得られました。  
これを見ると造形は同一です
が、ひっくり返すと底は無い
ものです。これ、とても便利
な(ステージ作例)です。 


2018/01/24

回転折り(コンパス折り)

(円)へ繋がる!思案

(折る)という行為は、原則的には「紙に(直線)を作図すること」とも考えられます。ところがこの直線作図行為が、ちょっとしたくふうで(曲線的な印象)を生み出すことになります。こんな課題は前にも記述しましたが、ここではまたちょっと視点を変えての話です。

(写真1)の左上の図を見ていただきながら説明すると、辺に平行な等分割線の折り目を付けたら、次にその等分割線と反対の折り目(谷折り⇄山折り)を、等分割の細長い長方形のひとつの(対角線)として、そのすべてを(平行)に付けます。するとそこに、用紙の中央を中心として、(コンパスで円を描く)ような現象が起こります。
 写真の左上から右へ移っての形がその結果の造形です。ねっ、紙の縁が曲線的になっているでしょう。 この形は、二つ折りして「二枚貝」とか「草」とか「木の葉」などの一般的な作例へと仕立てられるでしょう。

 さて次に、用紙形を正方形から(長方形)や(台形)に変えて、その形に同じような折り線を施してみますと、…ここには曲線的な造形と共に、対角線の付け方で(“左右”の造形の相違)という現象が起こります。これはとても面白く楽しい発見でした。
 とくに下中央の形からは、実に面白い「お皿」が出来ますから、考えてみてください。

写真1 右側の2形では、平行線ではない折り目を付けてみたもの。

 さて、こんな発見をさらに推し進めてみました。(写真2)をご覧ください。ここでは正方形の半分(1:2の長方形)で、写真1での試みと同じ折り線構造で、今度はその分割比を変えての造形変化を見てみましたところ、なんと!、それは美しい紙の表裏でのツートンカラーの(円形)イメージを生む造形となりました。そして次にそれを(半開き)の状態へと引き離してみると、そこに(螺旋形)が生じます。
 ところで(円形)と見える造形の場合よりも、その分割数の荒いもの(左側の5等分のもの)では、(正多角形→正8角形)が、そしてその下の(6等分では正10角形)と見えるものが現れていますね。…で、ここから思案を広げてみたものが、(写真3)の発見へと繋がったわけです。

写真2 「円形への思案」が!

 まあ上記のような考察の結果、私は新しい「正多角形の作図法(写真3)」を発見し、その昔、たまたまドイツにお呼ばれした折に、おりがみの同志の方たちにこんな発見の発表をさせていただき、皆さんから実に嬉しい喝采を得たのでした。
 なおそこで自慢させてもらったことは、定木とコンパスという(幾何図形の作図において、その使用を許された二つの器具を使用しても、“作図不可能図形”)とされた、(正7角形)や(正9角形)、(正11角形)や(正13角形)…などまでも(同じ要領で)描けることを発見したわけです。そうなんです! それこそ鼻を高く出来る自慢の発見でした。
 で、この折り方手法にはコンパス折りより(回転折り)の方が似合うかな?と思い、そんな命名をしました。
 指で折れる限界あたりの(正23角形)まで折ってみましたが、…もうこれはほとんど(円)の印象ですね。
写真3 正3角形から正23角形までの21形

 ともあれ、(おりがみ遊び)に惹き付けられるのは、こんな楽しい発見が、教育者でも学者でも無い身にもやれるからでしょうね。
 いえそう言うより、専門家ではないから逆に常識に捉われず、(近似解)で充分満足!と、自由気ままが出来るからなんでしょうね。(この具体的な作図法は、「おりがみ新発見1 日貿出版社 2005年刊」にて紹介しました。)

面白い「お皿」
(写真1)の解説からの造形


2018/01/20

正多面体の話(その2)

キューブの中の、他の4つの正多面体

 新しい年のスタートは、私がライフワークと決めた(キューブの探求)の話からしようと思います。

 全5種の(正多面体)の、(その相互の1対1での入れ子関係)は、全部で20通りの組み合わせが考えられますが、その中から(キューブの中の、他の4種の正多面体との関係)の姿を「おりがみ遊面体(既紹介)」から紹介します。

(写真1)に4つ並んだキューブは、すべて(割れるように)なっています。そこで割ってみたものが、(写真2)です。
ねっ!「幾何立体図形」って楽しいでしょう!そして「キューブ」って面白いでしょう!
 おやまあ、スタートから賛辞の強要ですね!

写真1
写真2
  左手前から「キューブの中の正20面体」、「キューブ
の中の正12面体」、「キューブの中の正8面体」、そし
て一番奥は「キューブの中の正4面体」。なおこの最後の
ものは、著名なデザイナー故福田繁雄さんの作品として学
んだことがあったもので、実はこの(正4面体)を割ると
そこに(正8面体)が現れるものですが、ここではそれを
分離してみたわけです。               
ともあれ、こういう造形物は、その(展開図)がこれま
た楽しいものなんですよ。