2022/12/30

ダイオングの決心

(鬼族)からの旅立ち !

 オーギの悲劇から半年が過ぎた。その半年は鬼族にとってはニンゲンの1年半くらいに相当する期間なのだ。そんな長い時間を一人でひっそりと暮らしていたヒメルの住まいのドアが、静かにノックされた。

「…どなた?」

「おお、ダイオングじゃ。そなたにちと頼みがあって来た。」こんな予想外の出来事にヒメルの顔が一瞬輝いたように見えた。そしてドアは静かに開いた。

「おお、ヒメル、わしのところへ遊びに来いと言ったのに来んかったな。おお、元気そうじゃな、嬉しいぞ。それになにやら臈たけて美しゅうなったと見えるぞ!」「さて今日はそなたに相談したきことあって、…ほれっ、オサノオウヒコどののところから戴いた(ショウチュウ)をもらって来たので、こいつを楽しみながら相談を聞いてもらいたいという思いだが、そうはいくまいかの?」

「何やら少々怖い気もしますが、何でも伺います。どうぞお入りくださいませ。」

「怖いと思われてなんだが、率直に言おう。わしゃそなたに無性に会いたくなっての。そうしたらオグルにも会いたくなったんじゃ。それでじゃ、二人でオグルを探す旅に出ないかとの相談が一つ。そしてもう一つ、ちとケッタイな相談じゃが、それを話す前にこいつで乾杯しようぞ。そしたらいくらか話がし易くなろうと思ってな。」

 あのときとは別人のような微笑みを浮かべたヒメルは、頷くと奥に入り、手に二つのグラスとチーズを持って出て来ました。

「ダイオングさまの口からオグルの名を聞き、半年ぶりに私の胸に赤い火が灯りました。そして、これはオグルのカクレ里からのおみやげです。オーギと三人で食べた残りですが、私一人では食べる気が起こりませんでしたが、今はダイオングさまと食べたくなりました。」

「おおそりゃいい! ところでさ、そなたヒノミという娘知っとるか? そのヒノミがさ、このチーズやショウチュウの造り方を学ばせてほしいとて、オサノオオヒコどのにはっきりと申し出たのよ。するとそれに呼応するようにホングの奴がな、自分は剣の修行にやはりカクレ里に行きたいと言い出してな、みんな大喝采になったのよ。」

「茶色い髪で背が高く、瞳が素敵なヒノミ、よく知っています。ああ、そうなんですか、それはとても嬉しい話ですね。さあ、ダイオングさま、嬉しい話に乾杯しましょ。」

「おお乾杯じゃ、そして懐かしいチーズもいただこう。さてと、最初の相談のオグルに会いたいことじゃが、彼はカクレ里に居るかどうかは分からんが、ひとまずそこを訪問してみたいと思っておる。でそれに一緒してほしいということじゃ。どうだろう?」

「大長(おおおさ)さまとしてのお仕事は、大丈夫なんですか?」

「ああ、なんの問題もない。そもそもお飾りの名のもの。でもまあ、4人の長(おさ)たちには断りを入れてある。なあ、ヒメルうんと言ってくれんか?」

「わかりました。どうぞお連れください。オグルにほんとうに会いたい!」

「おお!嬉しいぞ。…では次の相談じゃが、…ショウチュウを注いでくれんか。」

「あのな、実はわしは(角)を捨ててオグルと同じになりたいのよ。」

「まさか!本心ですの。でもそれで私に相談とは?」

「つまりじゃ、そなたの手でこの2本の角切り取ってほしいのだ。実は4人の長やボウグに頼んだが、皆首を縦に振らん。…しかたがない、自分でやるか、そうも思った。だがそのときそなたの顔が思い浮かんだのよ。」ここまで言うとグラスをぐっと傾ける。と驚いたことにヒメルは顔色も変えずダイオングにならってグラスを干しました。

「いいですよ。そもそも夫オーギの悲劇を引き起こしたのは、私の(角切り)が原因、でも今回は頼まれてのこと。罪の意識もありませんし。でもダイオングさま、あなたの心にオグルの父になりたいの思いが有りはしませんか?」

「ああヒノミよ。わしの心はすっかり見透かされているようじゃな。その通り、わしゃそなたに夢中なのさ。」


まあここはこのへんで。







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