阿部さんの教え
阿部恒さんからは、数学に関連したいろいろなご教示をいただきましたが、そのご教示の中の一つに次のような話を伺いました。
『小学校の算数の授業で、その教え方の順序が間違っていると思うことがあるんだよ。それは、まず最初に(足し算)と(引き算)を教わる。次に(九九)を覚え、その後で(掛け算)を教わり、いちばん最後に(割り算)となる。』
『でもこれが間違いで、こどもが日常生活の中で最初に出会う算数は(割り算)だと思うよ。たとえば(おやつ)を食べるとき、その菓子が複数あるもので、兄弟など何人かで食べるとき、(分ける)という必要に出会うだろう。つまり(割り算)だよね。
ここにいくつ足すとか、いくつ食べたから残りはいくつだとか、こどもはそんなことはほとんど考えないだろう。そうなんだ、(割り算)こそ最初なんだよ。』
『ところでさ、(おりがみ)できっちり折るという行為は(割り算)と等しいと言えるよね。だからさ、小学生の算数の授業に正方形の紙を与えることを提案したいね。』
これって卓見だと思います。そして私の思うに、小学生だけでなく、中学生に、あるいは高校生の数学の授業にも(正方形の紙、すなわちおりがみ)を教材にすることを提案したいものだと願っています。少なくとも(数学嫌い)を減らすのに、おりがみは必ず役立つだろうと信じています。
ところで、阿部さんと同じようなご教示を、伏見康治先生からも伺ったことがありました。『数学での“証明”を言うとき、一般には(proof)と言いますが、幾何学においては、(demonstration)と言います。そしておりがみにおいては、正に(目に証明する)のですから、デモンストレーションですね。これがおりがみの優れた点だと思いますよ。
さてね、今世界中で、美しい古典幾何学が教育現場から消え去ろうとしています。私はこんな現状を、おりがみは(そんな現状を変える先兵となれる)と、ヤノケンさん(数学者、矢野健太郎さんのこと)にも言っているんですよ。』(今から30年くらい前の話です。)
さてさて、これは私には(特ダネ記事)ですが、伏見先生は阿部さんのことを「フリーランスの教育者」と呼んでおられた、とは阿部さんご自身から伺い、そして阿部さんは、『これほど嬉しい評価はない。』と言っておられた。お二人の関係の素晴らしさ!
さてさてパズルの項で紹介したものも、そんな阿部さんや伏見先生への返答としての、一つの案になるかも知れないと思う、もう少し教材的な思い付きを紹介してみたいと思います。
“16等分 ” の折り目から
正方形のおりがみ用紙に、縦横それぞれを(4等分する折り目)を3本ずつ付けます。すると、それは(16の小正方形)に分割されます。
こんな、どうということもない(おりがみの基本の折り)によって、実にいろいろな数理が見えてくるから、おりがみって面白い!
この(16等分)の折り目を利用すると、いろいろと解ることが出て来ます。
1.辺の長さの5等分が出来ること。
2.“相似3角形“ ということが判ること。(3角形の内角の和=2直角)の数理の応用。
3.“ピタゴラスの定理” を身近に思えるようになれること。
4. いろいろな無理数などが取り出せること。
考えれば、これらの他にもいろいろと楽しい数理が判明し、「おりがみって、確かに良い教材!」が判ってくるでしょう。ともあれ、(考えること)が、目で行えるわけで、これって(教材)たる資格を示していると思います。
シルバー矩形の面白さと穏やかな日常
シルバーって(銀)や(銀色)のことで、これに年齢(エイジ)の語を付せば、高齢者のこと、つまり私のことでもあります。そしてオリンピック、パラリンピックでは、金に次ぐ第2位が銀。
さて、長方形について、最も美しい第1位のものを「黄金矩形=ゴールデン・レクタングル」と呼び、それに続く第2位を「銀色矩形=シルバー・レクタングル」と呼びます。私がしったかぶりに解説しなくとも、皆さん先刻ご承知のことですよね。
ところでことおりがみについては、私は(黄金矩形)より(シルバー矩形)の方が、はるかに楽しく応用力もずっと高いように思っています。そして、(おりがみの実際から言う)ならば、…いえ、私個人の感覚から言えば、「おりがみでは、黄金矩形よりシルバー矩形の方が、はるかに面白く可能性も高い長方形だ!」と公言出来るでしょう。
ただし、(おりがみと長方形)というテーマでは、私としては、第1位は「2:1の長方形=正方形の半分」で、第2位は「3:1の長方形」、そして、第3位に「シルバー矩形」を置きたいと思います。どうしてかと言えば、シルバー矩形は日常生活の中でもっともありふれた存在であり、楽しい成果をもたらせてくれる用紙形ですが、制作や説明を子供などにするのが難しいのが難点で、よって私はこれを第3位にしたわけです。
新聞紙と折込ちらし
新聞紙というのは、シルバー矩形(√2:1≒1.4:1)という比率のものだと思って来ましたが、新聞紙でのおりがみをやっている中で、「おや?これって、シルバー矩形とは違う長方形では?」と思いました。つまり、シルバー矩形とは、半分、半分、…と折っても、長辺と短辺の、その比率が変わらない長方形ですが、新聞紙はそうではないようだぞ?…
その通りでした。すなわち、新聞紙の比率とは(2:3→3:4→2:3→3:4…)と、半分に折るごとに二つの比率を繰り返す長方形でした。
このような事実を、家から新聞紙と折り込みチラシを持ってきてもらい、それらを(折って確かめる)ことは、それは「おりがみの教材化」を意味すると思う。
因みに、チラシ広告の多くは(√2:1)のシルバー矩形だったのだ。
シルバー矩形と非シルバー矩形の見分け方
手にした長方形が、シルバー矩形かそうでないか、との判定に(折ってみる)という手段が考えられます。その手段をご紹介しましょう。